日別アーカイブ: 2025年11月16日

【小説】坊主と屏風

俺が和室の居間に入ると、どこかから勝手にあがってきた坊主が床の間の屏風に上手な坊主の絵を描いている。
「おい!坊主、なにをする!」
坊主は素知らぬ顔で坊主の絵を描いている。よく見ると、屏風に描かれた絵の中の坊主も屏風に上手な絵を描いてやがる。
「この坊主め、確かに上手だけど坊主の絵をびょびょびょびょ……屏風に勝手に描くな!」

俺の怒鳴り声を聞きつけて入ってきた妻が
「どうしたの?」
「いや坊主が屏風に上手なぼぼぼ……坊主の絵を描いているんだ」
うまく言えない。ちゃんと聞き取れなかった妻が眉をひそめて言う。
「あんた、何言ってるの? ボールが豆腐に変わるとか、どういうこと?」
「いや、だから坊主が屏風に上手なジョーズの絵を描いてるんだ!」
また間違った! 妻は頭を抱え、
「またまた、今度はジョーズを噛んだって? 何を言ってるの?」
「違うって! 上手な毛布が屏風に絵を描いてるんだよ!」
早口で言えない。妻はますます混乱し、
「尿もれパッドに毛布が被さるって、何の話?」
「そんなこと言ってない! ジョウロにジョウロが……ああ俺もうまく言えない!」
妻はついに怒り出す。
「となりの竹垣に竹を立て掛けたの?」
「そっちの早口言葉は関係ない!」

そんな言い争いしている間にも、裏庭には二羽、庭には二羽の鶏があらわれ、隣の部屋で客が柿を食いだし、前の国道でバスがガス爆発、スーパーは生麦生米生卵の特売、赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマを着た老若男女の発明家が東京特許許可局に向かって歩き、その前をカエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ、この釘引き抜きにくい釘を引き抜き、新進シャンソン歌手が新春シャンソンショー、取材に来た貴社の記者、汽車、会社、記者会見……舌を噛みそうな状況が加速していく。

その時、坊主が静かに声を上げる。
「私こと坊主が屏風にびょうずな坊主の絵を描いたんです」
俺は爆発した。
「お前もちゃんと言えてないじゃないか!」

—— おわり——