おすすめ投稿

普通

僕の周囲の「普通」を描いた四コマ漫画です。 おもに新型コロナで世間が騒がしくなって以降のことを描いています。

SからFになる

奇妙な味のする、ありそうでなさそうな話をいっぱい思いついたので、これから描いていきます。

ちょっとおかしい

ちょっとおかしい(可笑しい/可怪しい)四コマ漫画です。

小説

僕は漫画を描くとき前段階として小説を書きます。 書いた小説を叩き台にして漫画を描きます。 そうして数しれず誰にも見せるあてのない小説が完成しました。 勿体ないので今まで書いてきた未発表小説を毎週発表していきます。

お知らせ

  • お仕事募集中

     頼まれたら常識の範囲内で何でもします! 夜中に縦笛だって吹いちゃうよ!
     連絡はこちら

  • グッズ販売中

     いままで描いたイラストや漫画でグッズを作ってみました。
    https://suzuri.jp/nozonder

  • 僕と絵本作家のつきおかゆみこ氏の二人でPodcastはじめました!

     作業中のお耳の友にどうぞ……

  • 【小説】月世界の楽団はもう奏でない

    イラストレーターの僕は、今まさに「月世界の楽団」という作品のイラストを描いていた。
    頭の中には、幻想的な音楽が響き、宇宙の彼方に浮かぶ楽団のシルエットが鮮明に踊っていた。
    その時――
    ピンポンピンポン!
    玄関のチャイムが激しく鳴り響く。
    「……?」
    こんな時間に誰だろう? 
    宅配の予定はない。
    嫌な予感を抱きながらドアを開けると、見知らぬ男が立っていた。

    「NNKです、受信料を払ってください」
    「……は?」
    スーツ姿の男が身分証らしきものを掲げている。
    「いや、うちテレビないよ?」
    そう言ってドアを閉めた、が。
    ピンポンピンポン! 
    また鳴らされる。
    「NNKです!」
    「だからテレビないってば! うちに上がって見てみるか? 絶対にないぞ!」
    「違います。勘違いなさっているようですが、我々はNNK、日本(NIHON)脳電波(NOUDENPA)協会(KYOUKAI)です」
    「……何だ?」
    「あなたも脳がありますよね?」
    「……まぁ、あるけど?」
    「なら、受信料を払ってください」
    「はあああああ!?」
    「脳がある限り、日本脳電波協会から電波を受信しています。契約の必要があります」
    「いやいやいや! 脳電波なんか受信してない!」
    「いえ、受信しています。今こうして私の言葉を理解している時点で、脳は電波を受け取っています」
    「そんな理屈があるか!?」
    押し問答が続く。NNKの男は次第に法律を持ち出し、「国民の義務です」とか「契約しないのは違法です」とか言い始めた。
    「いい加減にしろ!」
    NNKの男はスーツの内ポケットから分厚い書類を取り出し、僕の目の前に広げた。
    「こちらが『脳電波法』の正式な書類になります。第一条にはこうあります。『すべての国民は、生得的に脳電波を受信する能力を有するため、その対価として受信料を支払う義務を負う』と明記されています」
    「……?」
    「さらに、第一七条をご覧ください。『受信契約を拒否した場合、当協会は必要な措置を講じ、受信機能を制限する権利を持つ』と書かれています」
    男は親切丁寧にページを指でなぞりながら解説を続ける。
    「そして、こちらが受信料の詳細規定です。基本料金は月額三〇〇〇円。ただし、創造活動を行っている場合は特別に基本料金プラス追加で五〇〇〇円……」
    「……ちょっと待て、なんか今さらに増えたぞ!!」
    「いえ、これは理に適っています。あなたのようなクリエイターの方々は特に受信能力が高く、NNKの電波を享受していることが明らかです」
    「……馬鹿にしてるのか?」
    「ここに、創造的活動者の脳波測定データの統計資料もあります。ご覧ください」
    男はさらに分厚い冊子を取り出し、グラフや数値を示しながら説明を続ける。
    「もう勘弁してくれ!!」
    僕が怒鳴ると、NNKの男は冷静に言った。
    「では、受信できないように処置します」
    男は僕の耳の上を軽く触った。
    カチリ。
    男は一礼し、静かに帰っていった。
    「なんなんだよ……」

    変なことで集中力が削がれてしまった。
    僕は仕事部屋に戻って、イラストの続きを始める。
    だが――
    あれ?
    描けない。
    筆を持ったまま、じっとキャンバスを見つめる。
    今まで浮かんでいたはずの、あのめくるめく光景が出てこない。
    鮮明に思い描けていた星の輝き、微細な影、動きのある筆致――それらが霧のように消えていく。
    月世界の楽団が奏でていた音楽が、頭の中で完全に消えた。
    「……?」
    耳の奥に響いていた幻想的な旋律も、空気みたいに無音の彼方へと吸い込まれていく。
    筆先は震え、力なく宙を彷徨う。
    「まさか……」
    恐る恐る空を見上げる。
    月から届いていたかのようなあの映像が――途切れた。
    何も浮かばない。

    脳の静寂――そして、創造の終焉。
    こうして月世界の楽団は、演奏をやめた。
    月は沈黙に包まれ、ただ冷たく輝いていた。