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普通

僕の周囲の「普通」を描いた四コマ漫画です。 おもに新型コロナで世間が騒がしくなって以降のことを描いています。

SからFになる

奇妙な味のする、ありそうでなさそうな話をいっぱい思いついたので、これから描いていきます。

ちょっとおかしい

ちょっとおかしい(可笑しい/可怪しい)四コマ漫画です。

小説

僕は漫画を描くとき前段階として小説を書きます。 書いた小説を叩き台にして漫画を描きます。 そうして数しれず誰にも見せるあてのない小説が完成しました。 勿体ないので今まで書いてきた未発表小説を毎週発表していきます。

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  • 【小説】俺の読書癖が世界を支配する

    甘志(あまし)と酢吉郎(すきちろう)は、近所のカフェの隅の席が定位置になっていた。今日もそこに腰を下ろし、取りとめのない話を始めている。
    甘志は、手に触れた本はとりあえず最後まで読み切らないと気がすまない読書家だった。
    酢吉郎は、その逆側にいる。
    「活字を見ると眠くなるんだよね」
    と笑う酢吉郎に、甘志は今日も本について語りかける。
    「本ってさ、何冊読んだかじゃないんだ。同じ一冊を飽きるまで読み返すと、ある瞬間から物語が違って見えてくるんだよ」
    甘志の言葉に、酢吉郎は目を細めた。
    「それは何かの比喩か?」
    「いや、比喩じゃない。本当に変わるんだ」
    「どういうこと?」
    「例えばさ、スタージョンの『夢見る宝石』って小説があるんだけど、紙が擦り切れるくらい読んでるやつ」
    甘志はバッグからよく読み込まれた本を取り出した。
    「本当なら途中で死ぬはずのハバナがさ、一回だけ、最後まで生き延びていたことがある」
    酢吉郎は思わず笑った。
    「ただ読み間違えたとかじゃなくて?」
    「そうじゃない。何百回も読んで確認したんだ。ときどき、登場人物の運命が変わる」
    「違う話になるじゃん!」
    「そう、違う話になるんだよ」
    「桃太郎だって読んでたら一度、鬼と仲良くなったことだってあるぜ」
    甘志の真剣な表情に、酢吉郎は驚いた。
    いつもの冗談ではなさそうだ。
    こいつ、ちょっとおかしくなった?

    「俺は歴史小説も好きなんだけど〜」
    甘志が続けると、
    「それも変わるのか?」
    「その通り!」
    甘志は、待ってましたとばかりにカバンから別の文庫本を取り出した。司馬遼太郎『国盗物語』だ。
    「例えば、この本を何度も何度も読む。数百回も繰り返していると、あるとき内容が変わることがある。織田信長が明智光秀に裏切られる展開になっていたことだってある」
    酢吉郎は半信半疑の顔をしながらも少し興味が湧いてきた。
    「それで?」
    「まあ、それだけだけど」
    「それってさ、本の中だけじゃ済まないだろ。歴史そのものが変わるってことになる」
    酢吉郎は口先を尖らせた。
    「そう。歴史そのものが書き換わる。けどさ、最初からその世界にいる人間には、まずわからない。今だって、そうかもしれない」
    甘志が窓の外を指す。酢吉郎は首をふる。
    「変わってるようには見えないけどなあ」
    「俺は何百度も読んで、違和感に幾度となく襲われたから世界はきっと随分と書き換えられているのさ」
    「う〜ん、誰かが読むたびに世界が……」
    と、甘志はニヤリと笑った。
    「どうだい? そんな事を考えながら本を読むのも悪くないだろ?」
    甘志は微笑みながらコーヒーを飲んだ。酢吉郎は少し考え込みながら言った。
    「まあ、たまには読んでみてもいいかもな」

    「で、織田信長が明智光秀に裏切られる世界線ってどうなんだろうな」
    「俺が読んだときは、部下の羽柴秀吉が天下を統一する展開だった」
    「いやそれはないだろ、信長だって跡継ぎがいるんだし……」

    実際、ここは織田信長が明智光秀に裏切られず、そのまま日本を越えてユーラシアを統一した世界線だった。
    カフェの外では、玉ねぎ形の屋根を載せた派手なロシア風建築が通りを挟んで並び、そのあいだを、刺繍入りの衣服や毛皮の帽子を身に着けた人々が行き交っている。
    世界の方が何度も書き換えられていることに気づかないまま、二人はいつものようにコーヒーを前におしゃべりを続けていた。

    —— おわり——

    【小説】指圧の彼方に

    新宿の裏通りは、表の喧騒が嘘のように音を落としていた。
    曲がりくねった細い路地の奥に、指圧マッサージ店がひっそりと佇んでいる。
    扉を押し開けると、かすかにお香の香りが漂ってきた。
    カウンターの向こうから、小柄で白髪混じりの指圧師が現れた。
    「肩がこってまして」
    と僕が言うと、指圧師は黙って頷き、ベッドを指差した。
    横になると、指圧師は肩ではなく、その下のツボを押した。
    その瞬間——
    遠く、整骨院の窓際に置かれた花瓶の花が、ポン!と開いた。

    「お客さん、珍しい体質ですね」
    指圧師は満足そうに頷く。
    「ツボっていうのはね、東洋医学でいう気の流れに関係しているんですけど……あなたの場合、その流れが身体から外に広がっているみたいです」
    「見えるの?」
    「触れればわかりますよ。流れが皮膚の外に漏れている」
    そう言うやいなや、指圧師は僕の足の裏をぎゅっと押した。
    その瞬間、窓の外の雲が裂け、太陽の光がまっすぐ店内に差し込んだ。
    「ほらね」
    「ちょっと待てよ。遊ばないでくれ」
    しかし、指圧師は冷静な顔でツボを押し続ける。
    無表情ながらもどこか鋭い眼差しをしている。
    遠くのビルの窓がガタリと開き、看板の電飾がチカチカと点滅し、道端のマンホールから湯気が勢いよく噴き出した。
    「ここがあれに繋がっているということは……」
    指圧師がさらに実験を始める。
    至るところへ波紋が広がった。

    京都で千年の時を超え、朽ちかけた寺の鐘が突如鳴り響く。
    富士山の火口から白い光が漏れ、眩く輝く光の塊が八つの頭を持つヤマタノオロチの姿となり、首を揺らしている。
    ナスカの地上絵が動き出し、鳥がアニメーションのように踊り出す。
    万里の長城がうねりながら巨大な龍へと変貌する。
    世界各地で、常識を超えた現象が次々と発生する。
    そして——
    テレビのニュースが緊急速報を伝えている。
    「速報です!モスクワ赤の広場で異変が発生しました……!」
    カメラが映し出したのは、白い鳩の群れ。
    広場に降り立ち、空に「мир(平和)」の文字を描く。
    観衆が息を呑む中、クレムリンの時計塔が静かに時を告げる。
    「ロシアが戦争を……」

    画像
    「もういいだろ」
    僕は疲れ果てて呟いた。
    指圧師は肩をすくめた。
    「逆に、世界を旅していろんな場所を押したほうが、お客さんの疲れにはいいかもしれませんね」
    疲れを取るための指圧マッサージだったはずなのに、僕自身の疲れは残ったまま、別の話になってしまった。
    ——なんてこった。
    次の旅行先を考えながら、僕は重い身体を引きずって店を出た。

    —— おわり——